Story Books

Camelのコンセプト・アルバムの原作本や関連書籍、参考文献、DVDなどを集めてみました。
指輪物語
指輪物語

作者: John Ronald Reuel Tolkien(1892-1973)

The Lord of the Rings-The Two Towers/ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔
製作: 2002年
監督: Peter Jackson
主演: Elijah Wood (Frodo)
三人は一様にかれをみつめました。その髪は日にきらめいて雪のように白く、その長衣は白く輝いています。
秀でた眉の奥の目は明るく輝き、陽光のように炯々と光りました。
その手には力がありました。驚きとも喜びとも恐れともつかぬ気持ちで三人は突っ立ったまま、いうべき言葉もみつかりませんでした。
とうとうアラゴルンが凝然と動かない姿勢を解いて、「ガンダルフ!」と、呼びかけました。
評論社 新版 指輪物語5 二つの塔 上1 P203より

■ いわずと知れた、イギリス出身の言語学者トールキンによって書かれたファンタジー小説だ。
「中つ国」の「ホビット庄」 に住むフロドは、魔法使いのガンダルフから、フロドの持つ金色の指輪が実は、冥王サウロンの力の源であることを知らされる。
「滅びの山」の火で指輪を滅ぼさない限り、冥王サウロンを倒すことはできない。
フロドは指輪を滅ぼすため、仲間達とともに旅に出る...

※ ガンダルフ
指輪物語の中でも最も人気の高いキャラクターの一人で灰色の魔法使いと呼ばれる。
旅の途中、悪鬼バルログと戦い、死んだものと思われていたが、「白の乗り手」として復活する。

指輪物語はAndrew Latimerの愛読書で、Camelのセカンド・アルバムMirage (1974年)のSide1の3曲目Nimrodelのモチーフとなった作品である。
白雁物語
白雁物語

作者: Paul Gallico (1897-1976) 

The Snow Goose

製作: 1971年
監督: Patric Garland
主演: Richard Harris (Rhayadar)
兵士たちは猟師にねらわれた鳥のように、砂浜に体をよせあいながらうずくまっているんだよ、フリス。
わたしたちがよくみつけては安息所につれてきてやった、狩りたてられて傷ついた鳥のようにだよ。
頭上には鉄のハヤブサや、タカや、大ハヤブサのような飛行機が飛んでいるのに兵士たちには、そのような鉄の猛鳥から身をかくす場所もないんだ。
何年もまえにきみが沼地でみつけて、わたしのところへつれてきた王女さまのように、その兵士たちは嵐のような敵軍に追われ、さんざんいためつけられて、とほうにくれているのだ。
わたしたちは王女さまをなおしてやっただろう。その兵士たちも助けが必要なんだよ。
偕成社 白雁物語 P247より

■ いわゆる「ダンケルクの悲劇」を背景に、少女フリーザと醜い画家ラヤダー の心の交流を描いた短編小説だ。
少女フリーザは、傷ついた白雁の手当てを画家ラヤダーに頼んだことから、彼との交流が始まる。
フリーザは彼のやさしい心に惹かれるようになるが、やがて、ラヤダーはフランスの港町ダンケルクでドイツ軍に包囲されたイギリス軍の救出に向かう。
フリーザは彼を待ちつづけるが、ある日、白雁が舞い降りるのを目にし彼の死を覚る。

※ ダンケルク~フランスの漁港
1940年、第2次世界大戦初期の戦闘で、英仏連合軍約34万人が、この地でドイツ軍に包囲されるという「ダンケルクの悲劇」が起こるが、イギリス艦隊の活躍により救出された。

CamelのアルバムThe Snow Gooseは、同名のポール・ギャリコの短編小説にインスパイアされ制作された作品である。アルバム・チャートのTop10にも入った彼等の代表作品である。
シッダールタ
シッダールタ

作者: Hermann Hesse (1877-1962)

シッダールタ

製作: 1972年
監督: Conrad Rooks
主演: Shashi Kapoor (Siddhartha)
シッダールタは言った。
「おん身も知っているとおり、私は若いころすでに、森のざんげ者のもとで暮らした当時、教えや師を疑い、それに背を向けるようになった。
それは始終変わらなかった。
だが、私はやはりそれ以来たくさんの師をもった。美しい遊女が長いあいだ私の師だった。富裕な商人が、そして数人の賭博者が私の師だった。あるときは、遍歴の仏弟子も私の師だった。私が眠りこんでいると、彼は遍歴中私のそばにすわっていてくれた。彼からも私は学んだ。私は彼にも感謝している。大いに感謝している。
だが、私がいちばん多くを学んだのは、この川からだ。私の先達、渡し守ヴァズデーヴァからだ。彼ヴァズデーヴァはきわめて単純な人で、思索家ではなかったが、ゴータマと同様に必然の理をわきまえていた。彼は完全な人、聖人だった」
新潮文庫 シッダールタ P148より

■ ドイツの作家ヘルマンヘッセの有名小説だ。
シッダールタは釈迦の出家前の名前であるが、この作品では別の人物として描かれている。
青年シッダールタは、友人のゴーヴィンダと修行の旅に出る。
ゴーヴィンダはゴータマに帰依するが、シッダールタは旅を続ける。
年月が過ぎ、老いたシッダールタは、川辺でゴーヴィンダと再会する。
Mirageに続く3rdアルバムの制作にあたって、当初、Peter Bardensがアルバム・コンセプトとして推した小説である。ヘッセの小説の中でも特に人気が高い作品のひとつであり、とりわけベトナム戦争当時の若者に強い影響を与えたことでも有名である。
初期映像集DVDのMoondancesのボーナストラックとして、未発表曲Riverman (1975年作)が納められている。年代、タイトルからして、幻に終わったシッダールタ用に作られた曲と思われる。
Mr.Oの帰還
わが回想のルバング島

初版: 1988年
著者: 小野田寛郎
昭和ニッポン一億二千万人の映像 第19巻

発表: 2005年
小野田さん帰還のニュース映像を収録したDVD付きの本です
飛行機は羽田国際空港に着陸した。私はうながされて機内からタラップに出て戸惑った。タラップの下には、人、人、送迎場にも、真っ黒と言っては失礼だが、数え切れない人々が手に手に日の丸の旗を振っている。どこかで、かすかにラッパの音がする。
朝日文庫 わが回想のルバング島  P239より

小野田寛郎氏は、1945年(昭和20年)第2次世界大戦の終結を知らず、1974年(昭和49年)まで30年の長きにわたりフィリピン・ルバング島の密林に潜伏していた日本軍人です。
任務としてゲリラ戦の指導や諜報活動にあたっていたことなどから、小野田氏に対して厳しい論調をとるマスコミもあったようです。
小野田氏は、結局、大きく変貌を遂げた日本社会に馴染めず、翌昭和50年にブラジルに移住されましたが、平成元年には小野田自然塾を主宰し講演活動などを行うなどし、日本とブラジルを股にかけた活動を展開されました。

小野田寛郎氏は、平成26年1月16日に91歳で逝去されました。
Nude (1981年)は、小野田寛郎氏の事件を取り扱ったコンセプトアルバムです。邦題の副題として「Mr.Oの帰還」とあり、アルバムジャケットは目を惹く日本調です。
しかし、歌詞などを読むと、あくまで小野田さんの事件はひとつの題材として取り上げられたものであり、Nudeのストーリー自体は、Susan Hooverによる独自の解釈や展開が加えられた創作作品であることが分かります。
怒りの葡萄
怒りの葡萄

作者: John Steinbeck(1902 – 1968)

The Grapes of Wrath/怒りの葡萄

製作: 1940年
監督: John Ford
主演: Henry Fonda (Tom Joad)
ここは自由の国だぞ。
まあ、自由かどうか、やってみなよ。連中はいうぜ、おまえたちは払いができる範囲内でだけ自由なんだ、とな。
カリフォルニアじゃ賃金が高いそうだぞ。ほら、このビラにそう書いてあるだ。
あほくさい!わしは引っかえしてきた連中に会ってるんだ。おまえさんたちは、誰かに、だまされてるんだ。
おまえさんは、そのタイヤ、ほしいのかね、ほしくないのかね?
新潮文庫 怒りの葡萄(上) P233 より

■ 農地は砂嵐により荒野と化し、機械化と相まって農民はオクラホマを追われる。
カリフォルニアの地を目指して、トム・ジョードの一家も大陸を西へと渡るが、待っていたのは、過酷な重労働と低賃金だった....

新生Camelの第一作Dust and Dreams (1991年)は、スタインベックの「怒りの葡萄」をテーマとしたコンセプト・アルバムとなった。
アメリカへ移住した自身の姿とトム・ジョードを重ね合わせたのだろうか。
Eyes of Ireland
アイルランドからアメリカへ-700万アイルランド人移民の物語

発表: 1994年
著者: Kerby Miller and Paul Wagner
親愛なるお父さま、お母さま,
今のこの国の窮状は、ペンではとても書き表せません。アイルランド全土で、ジャガイモの収穫がほとんどないのです。目前に迫った飢餓を別にすれば、ここには、期待できるものは何もありません。
アイルランドからアメリカへ-700万アイルランド人移民の物語 P51より

■ アイルランドでは1850年代の大飢饉から現在まで550万人がアメリカへと渡りました。
農民は次々と土地を追われ、海外移住を余儀無くさせられた。
アイルランドの文化や歴史的経緯を背景に、当時の写真や手紙を交え、海を渡りアメリカへ移住した当時の人々の状況を解説しています。アメリカPBSを通じて放映されたドキュメンタリー番組を元に構成された。
Andrew Latimerは、父の死を機に86歳の伯父を訪ね、アイルランド移民であった父親の両親のことを知ることとなったという。
新生Camelの第2作Harbour of Tears(1996)は、父のルーツをモチーフとしたものとなった。
時代も場所も異なるが、創作の根底にあるのは、「家族の絆」であろう。
アルバム最終曲の後に延々と続く波の音からは、何よりLatimer自身が、作品の創作を通じて、父の死から徐々に癒さていった過程が伺われる。
Lawrence of Arabia
砂漠の反乱-アラビアのロレンス自伝

T.E.Lawrence(1888-1935)
Lawrence of Arabia/アラビアのロレンス

製作: 1963年
監督: David Lean
主演: Peter O’Toole (Lawrence )
わが軍は射撃をやめた。するとトルコ人もやめた。つまり、彼らの兵卒間には、もう戦意がなかったし、食糧もなかった。
そして、いっぽうこちらには十分供給されていると思ったのである。結局、降伏はおだやかに行われたのである。
われわれは、吹きまくる砂嵐のなかを、四マイルさきのアカバへかけおりた。ウェジェフを進発してから、ちょうど二か月目、七月六日にアカバの海へ躍りこんでしぶきをあげたのである。
角川文庫 砂漠の反乱-アラビアのロレンス自伝 P130より

■ 第一次世界大戦の頃、イギリスはトルコの支配下にあったアラブ民族を支援していた。
イギリス軍はアラブ情勢に詳しいLawrenceを派遣するが、彼は独断で砂漠を踏破し、アカバの要塞を陥落させる。
Lawrenceは英雄となりゲリラ戦を指揮していくこととなる。
1935年、空軍を除隊した後、自転車とのオートバイ事故を起こし不慮の死をとげる。

1999年作のRajazは別れをテーマとしたアルバムで、砂漠やアラブ世界を想起させる曲が散りばめられている。
最終曲のLawrenceとはアラビアのロレンス、すなわちThomas Edward Lawrence (1888-1935) に捧げられた曲である。